電離層(Ionosphere)とラジオ波の伝播現象の説明
電離層は、地球の大気の上層部にあり、太陽の紫外線(UV)やX線によって気体がイオン化される層です。この層では、電波が反射または屈折して遠くまで伝播することができます。
電離層の状態は太陽活動、季節、時間帯、地磁気嵐などによって変化するため、ある日は短波(SW)のアマチュア無線信号が地球の反対側まで届く一方、別の日には信号がほとんど受信されないこともあります。
1. 電離層の構造と高度別の特徴
電離層は大体50~1000kmの高さに広がり、主にD層、E層、F1層、F2層に分けられます。
電離層 | 層別区分 | 高度(km) | 特徴と電波への影響 |
---|---|---|---|
D層 | 50~90 | 昼間のみ存在、ラジオ信号を吸収(特に中波AM) | |
E層 | 90~140 | 昼間反射可能、スポラディックE現象(超強力反射) | |
F1層 | 140~220 | 昼間のみ存在、短波反射 | |
F2層 | 220~500 | 主な反射層、短波(SW)の長距離通信が可能 |
✅ 電離層の構造は昼と夜で異なります。
夜間には太陽光がないため、D層とF1層が消失し、F2層が広がります。これにより、夜間にはAM(中波)およびSW(短波)の電波が遠くまで伝播します。
2. 電離層とラジオ波の伝播原理
電離層はイオン密度(電離濃度)によって電波を反射、屈折、または吸収することができます。この特性を利用して、短波(SW)、アマチュア無線、軍事通信などが数千kmまで届くことが可能です。
① 電波の反射と屈折
✅ 電波は空気より密度の高い電離層に当たると屈折します。
✅ 入射角が一定の角度以下であれば、電離層を伝って地球に反射します。
✅ このプロセスが何度も繰り返されることで、超長距離伝送が可能になります。
② D層の信号吸収(昼間にAMが聞こえにくい理由)
✅ D層は昼間にのみ存在し、中波AM信号を吸収します。
✅ そのため、昼間にはAM放送の受信距離が短く、夜間にはより遠くまで届きます。
③ スポラディックE現象(E層での急激な反射)
✅ E層で高濃度のイオン化領域が形成されると、VHF(30~300MHz)帯域も反射することがあります。
✅ この時、FMラジオや2mアマチュア無線(144MHz)が遠くまで届くことがあります。
✅ スポラディックE現象は夏に頻繁に発生し、予測が難しいです。
3. 電離層の変動要因とラジオ信号の受信変化
電離層の状態は、太陽活動、地磁気嵐、季節、時間帯などによって変化します。
変動要因 | 説明 | ラジオ波への影響 |
---|---|---|
太陽活動(Solar Activity) | 太陽から放出される紫外線とX線が電離層を形成 | 太陽活動が強いほど、短波(SW)通信に有利 |
地磁気嵐(Geomagnetic Storms) | 太陽風が地球の磁場を乱す | 電離層が不安定になり、通信が途絶することも |
昼夜差(Diurnal Variation) | 夜間はD層が消失し、F2層が広がる | 夜間にAM/SWの受信距離が増加する |
季節変化(Seasonal Changes) | 夏はD層が強く、冬は弱い | 冬が短波(SW)通信に有利 |
スポラディックE現象 | E層の高濃度イオン化現象 | FM/アマチュア無線(VHF)が遠距離伝播可能 |
✅ 太陽活動が強いほど、短波通信に有利ですが、強すぎると干渉が発生します。
✅ 地磁気嵐が発生すると、電離層が不安定になり、短波通信が途絶する可能性があります。
✅ 夜間、AM中波放送が遠くまで届くのは、D層が消失するためです。
4. アマチュア無線と電離層の活用
アマチュア無線(ハム無線、Amateur Radio)は、電離層の反射を利用して地球の反対側と通信することができます。しかし、どの周波数がよく反射されるかは、電離層の状態によって異なります。
アマチュア無線帯域周波数 | 特性と電離層の活用 |
---|---|
160m(1.8~2.0MHz, 中波) | AMラジオと似ており、夜間に遠距離伝播可能 |
80m(3.5~4.0MHz, 短波) | 電離層反射で、地域通信が可能 |
40m(7.0~7.3MHz, 短波) | F2層反射で、長距離通信が可能 |
20m(14.0~14.35MHz, 短波) | 昼夜問わず、長距離通信が可能(DX通信) |
10m(28.0~29.7MHz, 短波) | 太陽活動が強い時に長距離通信が可能 |
6m(50~54MHz, VHF) | スポラディックE現象時に長距離伝播可能 |
✅ ハム(HAM)無線のオペレーターたちは太陽活動と電離層の変化を慎重に観察し、通信を試みます。
✅ 20m(14MHz)帯域は昼夜を問わず、電離層の反射を利用して安定した通信が可能です。
✅ 10m(28MHz)帯域は太陽活動が活発な時に長距離通信が可能です。
5. 電離層に関連する異常現象
✅ 短波ブラックアウト(Shortwave Fadeout, SWF)
太陽で強力なX線爆発(太陽フレア)が発生すると、D層が急激に強化され、短波(SW)通信が数時間にわたって完全に遮断されることがあります。
✅ 静電気(Static)ノイズの増加
太陽風と地球磁場が相互作用すると、電離層で静電的な揺れが発生し、そのためアマチュア無線やAMラジオで「ジジジ音」などのノイズが増加します。
✅ オーロラ伝播(Auroral Propagation)
太陽風が強い日には、オーロラ地域でVHF/UHF信号がオーロラによって反射され、通信が可能になります。
北極圏では、144MHz(2m)信号でさえも長距離通信が可能です。
✅ スポラディックE現象(異常反射によるFM放送受信)
夏には、FM(88~108MHz)ラジオの信号が普段よりもはるかに遠くの地域で受信されることがあります。
韓国で日本のFM放送が聞こえるのも、まさにこのスポラディックE現象のためです。
6. 結論
✅ 電離層は太陽活動や大気条件によって変化し、ラジオ波の伝播に重要な役割を果たしています。
✅ 短波(SW)やアマチュア無線は、電離層の反射を利用して長距離通信が可能です。
✅ 昼夜によってAM/SWラジオの受信距離が変わるのは、電離層の構造変化によるものです。
✅ 太陽フレアが強いと、短波(SW)通信の障害が発生する可能性があります。
✅ スポラディックE現象のおかげで、FMラジオが普段より遠くで受信されることがあります。
結論として、電離層はラジオ通信の「自然衛星」としての役割を果たしており、それをうまく活用することで遠距離無線通信が可能になります。
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