NVENCの数とエンコーディング性能の関係分析
NVIDIAのGPUの中でもハイエンドモデルには、複数のNVENC(NVIDIA Encoder)が搭載されている場合がある。一般的に、NVENCが1つのモデルよりも2つまたは3つ搭載されているモデルの方がエンコーディング性能が高いが、それが必ずしも単一動画のエンコーディング速度を向上させるわけではない。むしろ、複数の動画を同時にエンコードしたり、並列エンコード処理能力(スループット)を向上させる役割を果たす。本記事では、NVENCの役割と、複数のNVENCを持つ場合のメリットについて詳しく説明する。
1. NVENCとは?
NVENC(NVIDIA Video Encoder)は、NVIDIA GPUに内蔵されたハードウェアベースのビデオエンコーディングエンジンである。このエンジンは、CPUではなくGPU上で直接ビデオエンコーディングを実行し、CPUの負担を軽減しながら高速エンコードを可能にする。
1.1. NVENCの主な特徴
- ハードウェアアクセラレーションエンコーディング: CPUベースのソフトウェアエンコード(x264、x265など)とは異なり、NVENCはGPU内部の専用ハードウェアブロックを使用してエンコードを実行する。
- 低いCPU使用率: CPUベースのエンコードと比較すると、NVENCを使用することでCPUの負担がほとんどなくなるか、最小限に抑えられる。
- 高速エンコード: 4Kや8Kの映像でもリアルタイムで高速にエンコード可能。
- マルチストリーム対応: 複数の映像ストリームを同時にエンコードできる。
2. NVENCの数が増えると性能は向上するのか?
2.1. 単一NVENC vs. 複数NVENC
NVIDIAのハイエンドGPU、例えばQuadro、RTX 5000/6000、A6000、H100などのモデルには、複数のNVENCエンジンが搭載されている。一方、一般的なGeForce RTX 4060や4070のようなコンシューマー向けGPUにはNVENCが1つだけ含まれ、上位モデルのRTX 4090やRTX 6000 Adaなどには2つ以上のNVENCが搭載されている。
しかし、NVENCの数が増えたからといって、単一動画のエンコーディング速度が必ず向上するわけではない。
理由:
-
単一動画は1つのNVENCで処理される
- NVENCは基本的に1つのビデオストリームを1つのエンジンで処理するよう設計されている。
- 単一のエンコード作業では、追加のNVENCエンジンを活用できない可能性が高い。
- そのため、NVENCが2つや3つあっても、単一動画のエンコーディング速度が2倍、3倍になるわけではない。
-
マルチストリーム処理に有利
- NVENCが複数あると、複数の動画を同時にエンコード可能。
- 例えば、NVENCが3つあるGPUは、3つの動画を個別にエンコードできる。
- そのため、ストリーミングサーバーや動画変換作業において、複数の動画を同時処理する際の性能向上が大きい。
3. スループット(処理能力)の向上とは?
NVENCの数が増えると、GPUのスループット(処理能力)が向上すると言われる。これは単純に速度が向上するという意味ではなく、より多くのデータを同時に処理できるということを意味する。
3.1. スループット向上の意味
-
単一エンコード速度の向上とは異なる
- NVENCが複数あっても、単一動画のエンコード速度が向上するわけではない。
- しかし、複数の動画を同時にエンコードする場合、NVENCの数が多いほど処理能力が向上する。
-
同時処理できるストリーム数の増加
- NVENCが3つあるGPUは、3つの動画を同時にエンコード可能。
- 例えば、4K動画を3本エンコードする場合、NVENCが1つしかないGPUでは順番に処理する必要があるが、NVENCが3つある場合は同時に3本エンコードでき、全体の処理時間を短縮できる。
-
ライブストリーミングでの効果
- 複数のライブストリームを同時に配信する場合、NVENCの数が多いほど、複数のストリームを同時に処理できる。
- 例えば、ゲーム配信をしながらTwitch、YouTube、Facebookに同時配信する場合、それぞれのストリームを別々のNVENCで処理できるため、パフォーマンスが向上する。
4. NVENCの数が多いと有利なケース
NVENCを複数搭載したGPUは、特定の環境で非常に有用である。例えば、以下のような用途でメリットが大きい。
ライブストリーミングサーバー
- NVENCが複数あれば、同時に複数の配信を処理可能。
- 企業や放送局が複数のストリーミングを管理する際に重要。
ビデオトランスコーディングサーバー
- NetflixやYouTubeのようなプラットフォームでは、膨大な量の動画を同時に変換する必要がある。
- NVENCが多いほど、同時に変換できる動画の数が増加。
監視・防犯システム(CCTVサーバー)
- 複数の監視カメラ映像をリアルタイムでエンコード・保存する場合に有利。
- NVENCが多いほど、多くのカメラフィードを同時に処理可能。
仮想デスクトップインフラ(VDI)
- 多くのユーザーがリモートでGPUを使用する場合、NVENCを活用してリモートストリーミングの品質を向上できる。
5. 結論: NVENCの数が多いとどのようなメリットがあるか?
✅ 複数の動画を同時にエンコード可能(スループット向上)
✅ マルチストリーミング環境で大きな性能向上
✅ ビデオトランスコーディング、CCTV、クラウドゲーミングに有用
✅ CPU負担を減らし、リアルタイム処理能力を向上
❌ 単一動画のエンコード速度はNVENCの数に比例して向上しない
❌ 一般ユーザーの場合、NVENCが1つあれば十分な場合が多い
つまり、NVENCの数が増えるほど、単一動画のエンコード速度は変わらないが、複数の動画を同時に処理する能力(スループット)が向上する。サーバー、放送局、クラウドゲーミング、監視システムなど、複数の映像を処理する環境では、NVENCを多く搭載したGPUが非常に有用である。
コメント
コメントを投稿