CPUダイ(Die)でヒートシンク(Heat Sink)と直接接続(Direct Die Cooling)する方法は、従来のIHS(Integrated Heat Spreader)とTIM(Thermal Interface Material)を取り除き、熱抵抗を減少させて冷却性能を最大化する方法です。これを実現する方法とその長所・短所を分析してみましょう。
1. ダイでヒートシンクと直接接続する方法(Direct Die Cooling)
基本的に、CPUにはダイの上にIHS(Integrated Heat Spreader)が装着されており、IHSとダイの間にはTIM(熱伝導物質)が存在します。しかし、この構造では熱抵抗が増加し、CPUの冷却効率が低下します。
そのため、IHSを取り外し、ヒートシンク(または水冷ブロック)を直接ダイに接触させる方法がDirect Die Coolingです。
① 直接ヒートシンク接続
方法:
- CPUのIHSをデリディング(Delidding)して取り外す
- 既存のTIMをきれいに除去
- 高性能サーマルペースト(または液体金属)を塗布
- ヒートシンクまたは水冷ブロックをダイに直接取り付け
長所:
- ✅ 熱抵抗の減少 → より低い温度を維持可能
- ✅ オーバークロックの安定性向上 → 高い電力でも冷却性能が優れる
- ✅ 空冷/水冷両方に適用可能
短所:
- ❌ ダイの破損リスク → ダイは壊れやすいため、圧力調整が必須
- ❌ 均一な接触が難しい → ダイの表面が均一でないため、ヒートシンクと完全に接触するのが難しく、冷却性能が低下する可能性がある
- ❌ 一般的なヒートシンクとの互換性の問題 → 既存のヒートシンクはIHSの高さを考慮して設計されているため、適合しない場合がある
② Direct Die水冷ブロック使用
方法:
- IHSを取り外した後、特別に作られたDirect Die専用の水冷ブロックを取り付け
- ダイの表面に液体金属を適用
- ブロックとダイの間の圧力を精密に調整
長所:
- ✅ 熱伝達効率の最大化 → 従来の空冷/水冷よりも低い温度を維持可能
- ✅ 水冷システムと組み合わせることでオーバークロック性能を最大化
短所:
- ❌ ダイの破損リスクが高い
- ❌ 水冷システムが必須 → 空冷よりもコストが増加
- ❌ 設置難易度が高い
③ Direct Die TEC(Peltier)冷却適用
方法:
- IHSを取り外した後、ダイ上にペルティエ素子(TEC、熱電冷却器)を直接取り付け
- TECの冷却面がダイに直接接触するように設計
- TECの反対側を水冷ブロックで冷却
長所:
- ✅ 極低温冷却が可能 → 従来の水冷よりもはるかに低い温度を維持可能
- ✅ 極限のオーバークロック環境を提供
短所:
- ❌ 結露(Condensation)のリスク → 温度があまりにも低くなると、CPU周囲に水が発生しショートが起こる可能性がある
- ❌ 電力消費の増加 → TECは追加の電力を必要とする
- ❌ 設置難易度が非常に高い
2. 一般的な方法と比較(Direct Die vs. IHS保持)
方法 | 温度低下効果 | 難易度 | リスク | コスト |
---|---|---|---|---|
基本IHS + ヒートシンク | 基本 | 低い | 低い | 普通 |
IHS + 液体金属TIM | -5~10°C | 普通 | 中程度 | 普通 |
Direct Die + ヒートシンク | -10~15°C | 高い | 高い | 低い |
Direct Die + 水冷ブロック | -15~20°C | 高い | 非常に高い | 高い |
Direct Die + TEC(Peltier)+ 水冷 | -30°C以上 | 極めて高い | 極めて高い | 非常に高い |
一般的なユーザーであれば、IHS保持 + 高級TIM(液体金属)が最も実用的です。 極限のオーバークロックを行いたい場合は、Direct Die + 水冷またはTECの選択肢となります。
3. 結論:Direct Die Coolingは実用的か?
✅ 利点:
- 従来のIHS方式よりも低い温度を維持可能
- オーバークロックの安定性向上
- 極限性能を求める場合、TECと組み合わせると-30°C以下の冷却が可能
❌ 短所:
- ダイの破損(物理的損傷)のリスクが高い
- 設置難易度が非常に高い
- 既存のヒートシンク/クーラーとの互換性がない
- 空冷では実用性が低く、水冷が必須
➡ 高度なユーザーが自分でチューニングする場合には効果的ですが、一般ユーザーにはリスクが高い。 ➡ IHSを保持し、液体金属を使用するのが現実的な性能向上方法です。
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